プロジェクトを遂行するのは、そのために編成された「プロジェクトチーム」です。
プロジェクトチームの運営を支える、「リーダー」と「マネジャー」について考えてみましょう。
リーダーシップとマネジメント
「プロジェクトリーダー」と「プロジェクトマネジャー」--2人の役割は、どこが違うのでしょうか?
「同じ意味なんじゃないの?」「要するにプロジェクトの親分ってことじゃないの?」
「リーダー」と「マネジャー」の違いは何でしょうか?
スティーブン・R. コヴィー博士の『7つの習慣』に、「リーダー」と「マネジャー」の違いが明確に示されています。
同書の中では、次のような例え話で、わかりやすく説明されていました。
ジャングルの中を、何人かがグループを組み、汗水たらしながら必死になって、枝を掻き分け道を作りつつ、進んでいる。
自らもナタを振るいながら「頑張れ頑張れ」とメンバーを鼓舞し、時には休憩を取らせ、時にはケガ人の手当てに奔走している‥‥このように、一所懸命メンバーを引っ張っているのが、「マネジャー」です。
ときどき木に登って周囲を見渡し、「お~い。このまま真っ直ぐ行くと崖にぶち当たるぞぉ」とか「雲行きが怪しいから、そろそろテントの用意をした方がいいぞぉ」などと行っているのが、「リーダー」です。
言われてみれば、「そんなの、当たり前だろ?」と思います。しかし、言われてみて初めて「なるほど! そうか。そうだった」と納得がいきました。
基本的には、
リーダーは、 「環境を見通しながら方向を見定める人」であり、
マネジャーは、「現場を取り仕切りながら作業を進める人」です。
もちろん、リーダーとマネジャーは、2人で分担している場合もあれば、1人で兼ねていることもあります。
しかし、重要なことは、リーダーシップとマネジメントは、それぞれ別の「役割」である、と認識しておくことです。
もう少し検討を進めてみましょう。
リーダーの共感力
「リーダーシップ」というのは、文字通り「リードする」「引っ張っていく」「主導していく」という意味です。
では--「何をもって」引っ張っていくのでしょうか?
リーダーA 「黙って俺について来い!」
メンバーa 「ハハアッ! どこまでも着いて行きます!」
リーダーB 「給与に跳ね返るよ! 評価するのは俺だから」
メンバーb 「わかったよ。やりゃいいんだろ、やりゃあよっ」
リーダーC 「さすが、君は偉い! たいしたもんだ」
メンバーc 「へへぇ。そうですかぁ?」
カリスマ性で? 強引に? アメとムチで? 鬼か仏か? 恐怖で? 褒めて?‥‥いろんなリーダーシップのやり方があります。
しかし、ここではリーダーシップの「やり方」や、その良し悪しについては議論しません。「やり方」--すなわち「どうやって?」ということではなく、「何をもって?」ということです。
答えは単純です。
リーダーは、「旗を振って」引っ張っていくのです。
「旗」--すなわち、「ビジョン」です。
そして、「リーダーシップ」とは、「ビジョンに共感させる能力」のことです。
ビジョンに共感してメンバーは集まり、「いっしょに行こう」と思う。
メンバーを「ついてこさせる」のではなく、メンバーはビジョンのもとに「ついていく」。
共感するのは、メンバーだけなく、お客さまやクライアントであったり、取引先やパートナーであったり、いろいろです。
もちろん、いい加減なビジョンでは、どんなにリーダーシップを発揮しても、誰もついてきません。「共感できるビジョン」と「共感させる能力」の2つが相まって、リーダーシップは発揮されます。
プロジェクトにおけるリーダーシップにも、同じことが言えます。
プロジェクトリーダーの第一の役割は、「ビジョンを示し、共感してもらい、メンバーを引っ張っていく=リードしていく」ことです。
リーダーの政治力
さらにもうひとつ。プロジェクトリーダーに必須の能力があります。
それは--「政治力」です。
プロジェクトをスムースに進めるためには、プロジェクト内部のメンバーをリードするだけではなく、外部環境を整えていく必要があります。
リーダーには、プロジェクトを取り巻く周囲の政治的環境を読み取りながら、プロジェクトがスムースに進んでいくように、あの手この手と調整していく能力が求められます。
つまり、「政治力」というのは、利害関係を中心とする外部環境の「調整能力」という意味です。
たとえば、「こんどの役員会で、プロジェクトの進捗について、説明してくれたまえ」と言われた場合。しかも、「反対派の専務の顔を立てながら、なんとかうまくやってくれ」などと、余分なオマケまでついている‥‥。
あるいは、プロジェクトを依頼してきたクライアントのトップが急に理不尽な要求をしてきた。クライアントの担当者は困り果てて「何とかうまく説明してもらえませんか? 私の口から言うより、専門家から直接言ってもらった方が、説得力があると思いますので‥‥」と依頼してきた。「え~っ? 私からですかぁ?」
こういった役割を、マネジャーに任せてはいけません。マネジャーは、プロジェクト内部を束ねて、品質や予算、納期を睨みながら頑張っているからです。
政治的交渉や調整の役割は、やはりリーダーが担わなければなりません。
そうすることによって、マネジャーは安心してプロジェクトにまい進できるのです。
私事ですが、以前、社内のシステム開発のプロジェクトをやっていたときのことです。私は管理職で、プロジェクトの「責任者」という立場でした。部下や関係部署、外注先のシステムハウスなど、開発サイドのマネジメントに必死でした。
しかし、一番大変だったのは、社内の調整活動です。毎月の役員会での報告、説明資料作り、局長会での説明、部長会やら各部の部会やら‥‥。どこの会社でもそうかもしれませんが、とにかく、やたら社内会議が多いのです。
「たまらんな‥‥」と思いつつも、必要なことなので、ほとんどすべての会議に出席して説明していました。
当時の上司は、「俺にはシステムのことはようわからんから、おまえ説明しといてくれや」みたいなノリで、私も「そうですね、私がやらなきゃダメですね」とまじめに答えていました。
しかし、マネジャーが外の環境調整ばかりに気を奪われると、どうしても内部への注意が疎かになってしまいます。案の定、溜まりに溜まった問題点が、あるときドカンと噴出してしまいました。その処理に終われると、今度は社内会議への出席が滞る、役員から文句が出る、他部署からも不満が出る‥‥。
今から考えると、リーダーとマネジャーの役割を分けるべきでした。
マネージとは、「何とかうまくやる」
ある、外資系企業の日本法人の社長(日本人です)から依頼されたプロジェクトをやっていたとき、こんな話になりました。
「“マネージ” って、日本語では “管理” って言うだろ? これって、なんかニュアンスが違うんだなあ‥‥」
「そうですね。管理、監督、指揮、命令、制御、統制‥‥」
「だろ? “マネージ” ってさ、なんかさ、もっと泥臭くてさ、限られた時間とか人間とかお金とかを、なんとかやり繰りしながら、なんとかうまくやっつける、って感じだよね」
う~ん。なるほど、と思いました。
「ちゃんとマネージしろよ」というのは、「何とかうまくやれよ」というニュアンスなのです。「汗水たらしながら必死こいてる」雰囲気が伝わってきます。
それ以来、マネージとかマネジメント、マネジャーという言葉を、安易に管理、管理者などに置き換えることはやめました。マネージはマネージ。
プロジェクトマネジャーの役割は、「リーダーの示すビジョンに共感し、それを目指して、決められた期日までに、限られた資源(予算)の中で、限られたメンバーとともに、計画を遂行すること(=制約の中で、何とかうまくやり遂げること)」です。
何とかうまくやる。何とかうまくやり遂げる。投げ出さない。
中止ということもあるかもしれないけれども、とにかく、決着をつける。
マネージの意味は、イメージとしては、「管理」ではなく「実務」に近いように思います。
言うだけでなく、ちゃんとやれる。有言実行。
「ああせい、こうせい」と言うだけの「管理」ではなく、「仲間と一緒に、実際の仕事をやれる」--「実務」。
マネジメント力というのは、「管理能力」ではなく「実務能力」。
マネジャーの胆力
リーダーが、プロジェクトの「顔」としたら、マネジャーは「腹」です。
プロジェクトの中心。おへそ。臍下丹田。
その他のプロジェクトメンバーは、いわば「手・足」です。
マネジャーを引き受ける際には、腹を決めてかからなければなりません。
腹に落ちる。腹が据わる。
このプロジェクトはワシがやる--という責任感。何があっても、逃げない。投げ出さない。やり遂げる。どんな形であれ、このプロジェクトの「決着」をつける。
このような--「覚悟」を決めているのがマネジャーです。
マネジャーの腹が据わっていないと、プロジェクトのメンバーは苦労します。
特に、大型のプロジェクトや、困難の予想されるプロジェクトの場合、マネジャーが覚悟を決めていないと、プロジェクト自体が途中で空中分解することが多いです。
腹が据わっていれば、判断に迷うことが少なくなります。決断のスピードが早くなります。迷いの少ない分、間違いも少なくなります。
私事ですが、二つの会社で合弁事業を立ち上げるというプロジェクトをやったことがあります。
プロジェクトとして立ち上げるためには、両社の思惑や、各社内の事情など、さまざまな障害を乗り越えなければなりません。タイミングということもあります。役員会で否決され、役員一人一人に根回しし、また役員会にかけて‥‥、やっとGOが出たと思ったら、今度は相手の会社の足並みが揃わない‥‥。立ち上げまでに5年かかりました。合弁会社が設立され、事業が始まったのは、それから半年後でした。
私ともう一人、相手の会社に腹を括ってくれた人がいました。「芝根さん! 何が何でも実現しましょう!」--その人がいたから、私も最後まで投げださないで頑張れたと思います。逆に、その人にしてみれば、私を「裏切れない」と思ってくれていたようです。
覚悟を決めた二人がいたから実現できたプロジェクトだったと思います。
「覚悟を決めるとか、腹を括るとか・・・いやだな。もっと、気楽にできないの?」と思われるかもしれません。
そうです。プロジェクトは、もっと気楽に楽しく、イキイキワクワク進めたいです。
しかし、気楽になるのは「腹を決めてから」です。
最初から気楽にはなれません。
「マネジャーやってくれますかぁ?」
「あいよっ。いつでもどうぞぉ」
‥‥なんてノリで引き受けると、ちょっと障害があるだけで、
「や~めた」と投げ出したくなってしまいます。
いったん覚悟を決めてから、それから気楽にやるのです。
もちろん、プロジェクトの全部が全部、こんなに大変な覚悟を決めなければならないかといえば、そんなことはありません。そんなことなら、マネジャーなんて引き受ける人は誰もいなくなってしまいます。特にクリティカルなプロジェクトの場合には--ということです。
まとめ
リーダー | リード=ビジョンで引っ張る | 共感力・政治力 |
マネジャー | マネージ=何とかうまくやる | 実務能力・胆力 |