「〈意図〉を〈メッセージ〉に変換する」--コミュニケーションを企画するプロセスの中で、もっともエキサイティングな場面です。
そのとき--最後の最後に必要な能力は、「直感力」になります。
〈メッセージ〉を作るということは、すなわち「何を伝えたいのか、誰とどんな関係を築きたいのか」という〈意図〉を受けて、それを〈メッセージ〉という形に変換(コンバージョン)する、ということです。
「言いたいこと」と「伝わること」の間
自分の「言いたい」ことをストレートにポンと伝えても、素直に相手に「伝わる」とは限りません。
と言うよりも--ほとんどの場合、コミュニケーションは失敗します。
Aさん 「こんなに一所懸命に伝えているのに・・・」
Bさん 「それは、あんたの勝手でしょ?」
大事なコミュニケーションであればあるほど、相手の考えていることやバックグラウンドなどを想定して、伝え方、話し方、対話の方法などに知恵を絞るはずです。
・どんな言い方をしたらいいだろうか?
・どんな順番で話せばいいだろか?
・この単語は知っているかな? 誤解されないかな?
・どんな例え話をしようか…
・今は話をしてもいいタイミングかな?
「言いたいこと」と「伝わること」の間には、大きな“溝”があるのです。
だからこそ、「言いたいこと」から「伝わること」への変換が必要なのです。
メッセージ変換と直感力
組織のコミュニケーションでも同じです。
ターゲットをイメージしながら、〈意図〉をどのような〈メッセージ〉に変換していくか--これを考えることが、コミュニケーションを企画するときの最重要ポイントになります。
「メッセージ・メイク」--企画会議などで、議論が最も伯仲するのは、この段階です。
オリエンテーション、意図の説明と議論・理解、リサーチ結果の共有、ブレスト‥…大変なプロセスですが、一番楽しい場面でもあります。
そして、議論に議論を重ねて、検討に検討をし尽くして、最後の最後の段階で「よし! このメッセージでいこう!」と結論が出る‥‥この場面が、実に面白い。
うまくいった場合には、結論は--「ポッ」という感じで出てきます。
まったく論理的ではありません。
その「瞬間」は--まさに、「ポッ」という感じです。
そして、会議に参加したメンバーのほとんどは、理屈を通り越して共感し、納得している。
「いいんじゃない?」「ま、そんな感じかな」と。
複雑系というか、右脳的というか、潜在意識というか--とにかく「直感」の世界だと思います。
さて、そこからが大変です。
企画会議に参加したメンバー以外の人たち--顧客(クライアント)や、会社の上司など--に対しては、論理的に説明しなければなりません。
結論が出た段階では、明確な理由はない。というよりも、うまく理由を説明できない状態なわけですから、そこから逆に、論理を積み “下げて” いく必要があるのです。
先に「結論ありき」ですから、論理は、積み “上げる” のではなく、積み “下げる” になるわけです。
ここから先は、「力仕事」になります。
メッセージ誕生の瞬間
以前、私の参加したプロジェクトで、こんなことがありました。
ずいぶん前--1990年前後のことで、クライアントは外資系の大手メーカーです。
日本市場でのコミュニケーション計画を立案し、実行に移す、というプラン。
およそ半年をかけて、さまざまな対象にリサーチを実施しました。
企業ユーザー、自宅ユーザー、流通業者、専門ディーラー、新聞・雑誌の編集者・記者などなど。
リサーチ結果を中間報告し、基本メッセージの検討に入りました。
この段階で、すでに半年近くが経過していました。
しかし、そこからが大変だったのです。
侃々諤々、ああでもないこうでもない‥‥。議論に議論を重ねても、なかなか結論がでてこない。
プレゼンテーションの締め切りは迫ってくる。
焦れば焦るほど、頭の回転は悪くなる、会議では怒鳴り合いになる‥‥。
ついに--プレゼンの日が来てしまいました。
メッセージ案は‥‥できていません!最後の最後のドン詰まり--プレゼン当日の、クライアントのオフィスに向かうタクシーの中--営業担当(プロジェクトリーダー)は、プランナーを中心にした主要なチームメンバーを缶詰にして、
「頼む! 後生だから、メッセージ案を考えてくれ! 何でもいい。ひねり出してくれ!」タクシーの移動時間は、約1時間。
一同「う~ん。う~ん」と、唸るばかり‥‥。30分が経過したころ--その瞬間がやってきました。
誰かが、ふと、漏らした何気ない言葉に反応して・・・、
プランナーが、「あ? これかな?」と‥‥。
彼は、サインペンを持つとスケッチブックにサラサラと‥‥何かを書きなぐり始めました。
それを見ていた私たちは、「お~っ! これだ!これだ!」
メッセージが--産み落とされた瞬間でした。
カッコいいデスクトップ・プレゼンテーション‥‥を準備する時間はありません。
残りの30分を使って、タクシーの中、スケッチブックにガシガシと手書きで、それっぽい理屈を書き連ねていきました。
クライアントの会議室で、社長を前にしてのプレゼンテーション。
道具は--スケッチブックだけ。
営業担当者曰く、
「われわれは、およそ半年間、議論に議論を重ねて検討し、準備を進めてきました」
(ホントはタクシーの中の1時間)。説明しました。
論理展開は‥‥まったく不十分です。
情熱だけです。とにかく、熱っぽく語るだけです。30分‥‥も経過しなかったと思います。
それまで黙って聞いていたクライアントのCEOが、突然立ち上がって--
「OK! これで行こう! ありがとう!」と、握手を求めてきたのです。「えっ?」--私たちは、あっけに取られたまま、右手を差し出していました。
がっしりと、握手--だんだんと、喜びが沸いてきました。CEOは、若い頃のジャック・ニコルソンに似た強面の、カナダ生まれのアメリカ人でした。握手をしてニッと笑うと、キューピーに似ていました。
いつもこんな状況なわけではありません。
これが日常だったら、身が持ちません。
しかし、メッセージ誕生の瞬間というのは、こんな感じです。
後日談ですが、この基本メッセージは、日本発でワールドワイドに展開されることになりました。現在でも使われています。(守秘義務があるため具体的にはお伝えできません)。
メッセージ・メイク--大変な作業ですが、コミュニケーションを企画するプロセスの中で、一番楽しく、もっともエキサイティングな段階です。