ターゲット・イメージ と リバース・エンジニアリング

コミュニケーションは、〈相手〉がいなければ成立しません。
相手をイメージし、そこから〈逆算〉してコミュニケーションの方法を導き出す--そのようなテクニックがあります。

コミュニケーションがうまくいくかどうかは、相手のことをどれだけ理解できているか、どこまで相手のことを〈イメージ〉できているか--にかかっています。
相手のことがきちんとわかっていれば、そこから逆算して「どう伝えるか、どう聴くか」が、自然にわかってきます。

ターゲットをイメージする

コミュニケーションとは--「心の共鳴」と「情報の交換」による「関係性」(リレーションシップ)の創造--です。
関係性というからには、「相手」が必要です。

組織コミュニケーションでは、コミュニケーションの「相手」のことを、「ターゲット・オーディエンス」あるいは単に「ターゲット」といいます。

組織コミュニケーション成功の鍵は--ターゲットをどれだけリアルにイメージできるか--にあります。
ターゲットをどう設定するのか--も重要なテーマですが、ここでは確定しているものとして論を進めます。

ターゲット像は、性、年齢、職業、収入、家族構成、居住地域といったデモグラフィック特性だけではありません。
もちろんそれも重要なのですが、コミュニケーションを企画する上では、ターゲット「イメージ」の方がより重要です。

何を考えているのか、何を感じて生きているのか、何を悩んでいるのか、何をしたいのか、どんなことがあったらうれしいのか、楽しいのか‥‥価値観や趣味なども含めてイメージするのです。
リアルにイメージできれば、何を「どう言えば伝わるか」が、自らわかります。

作家の松本清張さんは、道を歩いている一人の老婆を、喫茶店の中から窓越しにしばらく眺めていただけで、その人の生い立ちから死ぬまでの一生の長い長い物語を、語りつくしたといわれています。
もちろん創作、作り話です。作家には、それだけの想像力(イマジネーション力)が必要だという教訓です。

われわれには、とてもとても、そこまでの妄想力(?)はありませんが、可能な限りイメージすることが大切です。

リバース・エンジニアリング

リバース・エンジニアリング(Reverse engineering)とは、ソフトウェアやハードウェアなどの「完成品」を分解、あるいは解析するなどして、製品の構造を分析し、そこから製造方法や設計図、ソースコードなどを推測することです。

つまり、「設計図」から「部品」を組み立てて「完成品」をつくるという “正順” ではなく、「完成品」から「部品」を分けつつ「設計図」を導き出すという “逆順” の技術です。

余談ですが、旧共産圏では、西側諸国のコンピュータを手に入れて分解し設計図を作成したり、ソフトウェアを解析してソースコードを類推するなどの技術が進歩していましたが、ベルリンの壁崩壊後、それらの技術者が米国などに流出し、リバース・エンジニアリングはさらに普及したといわれています。

実は、コミュニケーションの企画においても、このリバース・エンジニアリングと同じようなことをやっています。

例えば、○○という製品の家庭における購入に関して‥‥

  • 購入の意思決定者は父親であるが、
  • 金銭面でもっとも影響力を持っているのは母親である。しかし、
  • 買いたいと言い出したのは子ども(中学生)であり、機種選定にも影響力が高い。
  • その子どもが買いたいと思ったのは、先に○○を購入している同級生の影響が大きい。
  • その同級生は、TVコマーシャルで○○の発売を知ったが、最終的には雑誌AAの記事を読んで、購入を決定した。
  • 調べたところ、その雑誌の記者は、別の専門誌BBの記事を参考にしながら、自分の記事を書いたとのこと。
  • 専門誌の記者は、比較すべき各社の製品情報を集めるのにたいへん苦労した様子。

‥‥ここまでプロセスと、コンタクトのポイントが描ければ、どこからどう手を打てばいいか、明らかになってきます。
専門誌BBの記者にたいして、(他社を含めて)さまざまな製品情報を提供し、記事を書きやすくしてあげる--という活動がスタートラインです。

企業での製品購入に関しては、例えば‥‥

  • 購入したいと言い出すのは、現場の担当者である。
  • 担当者は、製品○○の存在を、会社で購読している新聞の広告で知った。
  • 担当者は直属の管理者にお願いし、了承した管理者が申請書を起票する。
  • 申請書作成時に必要なデータ類は、メーカーのWebサイトから入手した。
  • 申請は部長決済まで。申請が通ると、購買部が購入することになる。
  • しかし、購買部は製品に関して何も知らない。忙しくて調べたりもできない。
  • そこで、出入りの流通業者の担当者に、選定から購入までを丸投げすることになる。
  • 出入りの流通業者がもっとも重視している情報源は、メーカーや代理店の実施するセミナーである。各社のセミナーに積極的に参加しているらしい。

影響力のある人のことを「インフルエンサー」といいます。
コミュニケーションにおけるリバース・エンジニアリングとは、「インフルエンサーのインフルエンサーを探せ」を繰り返し繰り返して、全体のプロセス構造を明らかにすることです。

コミュニケーションを企画することの基本は、「何を、誰に、いつ、どのように」を考えることです。

「何を」は、メッセージをメイクすること。
「誰に」は、ターゲットをイメージすること。
「いつ」は、実行のタイミング。
「どのように」は、アクションプランです。

そして、「どのように」を考える時のテクニックの一つとして、〈リバース・エンジニアリング〉があります。